声はすれども姿は見えず 君は深野のきりぎりす
拙者、在府 内藤左門之丞こと坂入 譲と申すもの
このコラムで書き綴りたきことは、剣技やスタイルではなく、失われ行く剣を持ものの真髄と生きる知恵をご紹介したく思っています。
ヒーロー番組にみれる剣術
拙者が子供の頃ヒーローといえば「ウルトラマン」に「仮面ライダー」でした。
ただ夢中で見ていた記憶、ウルトラマンのスペシューム光線のポーズ。仮面ライダーの変身ポーズを真似て夢中で遊んだものです。
大人になって、剣術を学び改めて、当時の「ウルトラマン」や「仮面ライダー」を見てみるとその立ち居振る舞いが剣術に強烈にリンクをしていることに気が付いたのです。
その秘密は仮面ライダーのスーツアクターやショッカーの戦闘員の皆さん、怪人は、大野剣友会という殺陣師集団で構成されていたこと、仮面ライダーの殺陣はまさに往年の東映時代劇の殺陣でした。
仮面ライダーの藤岡 弘さんがショッカーに囲まれ、「でたなショッカー!」とショッカーをにらみつけるポーズは一重腰でずんと構え、すわ、抜刀の型にて変身を遂げる。
二号ライダーの佐々木さんは、示現流の蜻蛉の構えで変身をする。
戦い方も武器を手にするショッカーを半身で体を捌き低く入り込んで無刀取り、間合いの詰め方も半身歩きでじりじりと詰め寄っていくこの間合いも剣術の間合いで緊迫感を持つ。
ウルトラマンも常に前屈姿勢で柔道の相四つを狙っている動作を見かける。
カッコよさや撮影演出の犠牲になった体裁き
現代のヒーローはとってもモデルのようなスタイリッシュなポーズでの戦いだカッコよさや撮影演出の都合もあるが、どのヒーローも戦うための体裁きをしていない。
同時にあの時代時代劇ヒーローも旺盛だったので、「桃太郎侍は一刀流だな」「眠狂四郎の敵は薩摩示現流だな」「こいつの構えは念流だな」「吉宗は柳生新陰流のはずだよな。。。」
この居合抜きは田宮流なんて事がわかって剣術がお茶の間にあった時代。
昭和の子供たちは仮面ライダーごっこや、ウルトラマンごっこ等から、自然に体を入れることを学び間合いの詰め方を潜在的に知ることができたのかもしれません。
このことが今より子供同士の喧嘩が多かった時代に大きなケガも少なかった理由だったのかもしれません。
正義のヒーローと悪役のショッカーたちが、戦う距離感を学ばせてくれたのかもしれないなと思うと日本古来の古武術を伝えていくための新しいヒーローが必要なのかもしれません。
気取ったセリフと綺麗ごとそしてスタイリッシュなヒーローが受け入られる時代。
無口で礼節を守るヒーローは存在できるのだろうか?と物憂げに思う今日この頃です。
- 昭和特撮文化概論 ヒーローたちの戦いは報われたか
光仮面、ウルトラマン、仮面ライダー…、数多のヒーローたちは、実は時代と世相を反映している。彼らの戦いの背後には常に、折々の日本が直面してきた問題が隠れているのだ。彼らは死闘を通じて私たちにどのようなメッセージを残していったのか。 新聞記者である著者が長年蓄積した情報を交え、特撮ヒーロー番組と現実世界との相関をひもときながら、その文化性を検証する!
- 殺陣武術指導・林邦史朗
大河ドラマの殺陣師として約40年。時代劇のクライマックス=殺陣を知り抜いた男、林邦史朗が、殺陣師の仕事と役割、自ら手掛けた大河ドラマなど、その世界についてすべてを語り尽くす。俳優・緒形拳との特別対談も収録。